重たいノートの山を抱え教室を出る。
と、少し歩いたところで持っていたノートを全てひっくり返してしまった。
落ちる寸前の自分の「あっ…」という間抜けな声と、ノートが床に落ちるバサバサという乱暴な音の間にはさほどの時間はかからなかっただろう。
自分のどん臭さに、はぁ と1つため息をつくとバラバラに散らばったノートを一冊一冊集め始めた。
すると、持ち上げようとしたノートが自らひょいと持ち上がる。
「えっ?」
思わず眉をひそめると、頭上から「はいっ」と声がした。
しゃがみこんで夢中でノートを拾っていた私は初めて顔をあげる。
するとそこには、見知らぬ男の人が立っていた。
「大丈夫?」
何冊か拾ってくれたノートを持ち、笑顔でそう問いかけてくれたその人。
「あ、はい!大丈夫です!」と、慌てて立ち上がると急いでノートを全部受け取る。
「職員室に持ってくんだよね?手伝おうか?」
そう言って私の顔をのぞき込んでくるその人に、
なんて親切な方なんだろう
と感動したが、見知らぬ方の助けを頂くわけにはいかないとキッパリと断った。
全てのノートを持ち、よたよたと歩き始める私。
そんな私の後ろでその人はフッと笑った。
「みーつけた。
あれが野々宮ことはちゃんかぁ」
その人がそんな事を呟いているとは知らずに、私はもう落とすものかと全力で職員室へと向かった。
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「失礼します」
そう一言かけて職員室へ入ると、私の声に反応した小田先生がすぐ席を立って入り口まで来てくれた。
「ありがとう、重かった?」
そう言って私からノートを受け取る小田先生。
そんな先生に「もうとっても」と少しの意地悪を言ってみた。
その言葉にクスッと笑う。
「言うと思った。ご褒美あるよ?」
先生はドサッと自分の机にノートを置くと、空いてる会議室に入るように私を誘導した。
扉の前のプレートを"未使用"から"使用中"に変え、扉を閉める。
そして、隠し持っていた袋をじゃん!と私の目の前へ自慢げに差し出してきた。
「プリンっ!!」
袋のパッケージを見て飛びついた私を見て先生は満足そうに会議室の椅子に腰を掛ける。
「お主も掛けぬか」
「いや、かたじけない。」
なぜか戦国武将のような喋り方の先生に合わせてそう答えた。
そしてその言う通り腰をおろす。
私の返答を聞いて楽しそうに「苦しゅうない」と、先生が続けるのでとうとう私は笑ってしまった。
それにつられて先生も笑いながらプリンが入っている袋に手をいれる。
「みんなには内緒な」
そう付け加えてからプリンを出すと
付属のスプーンと一緒に私の前に置いてくれた。
