"お母さん"







その単語にドクンと1つ心臓が強く心を叩いた。









でも、何も知らない沙奈は全く悪くない。





むしろ知っていたところで気を使わせる方が嫌だから、教えたいとも思わない。
















そう自分の中で解決している私は、その心臓からのメッセージを押し戻し笑顔を作った。











「ごめんなさい、まま〜」













甘えたように沙奈に抱きつく。











すると、西谷くんと橋戸くんもそれに習うように後ろから「まま〜」と抱きついてきた。













揉みくちゃになった私達はバランスを崩して倒れそうになり、四人で笑った。













そんな楽しい登下校の光景を職員室の窓からある先生が見ていたことも知らずに。















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朝の朝礼を終え、1時間目の国語の授業は残り5分を切っていた。









そわそわ落ち着かなくなる女子たち。







その理由は簡単だった。








本日の2時間目の教科。








それは数学だった。















担当教員は小田先生。









入学してから数日がたったが、小田先生の人気は衰える事を知らなかった。










チャイムがなり1時間目の授業の終わりを知らせると、国語の委員の生徒が号令をかけた。













「起立、礼」











先生が出ていき自由になった教室内はざわめきを取り戻す。









「ことはー、数学の宿題やった?」






西谷くんが席を立ち数学のノートをもって私の席まで来ながらそう聞く。










「うーん、やったけど難しくてわかんなかってから全然合ってる気しない。」











そう答えるなり、西谷くんはパチンっ!と手を合わせた。









「お願いします、ことは様!!
間違っててもいいんで、映させては頂けないでしょうか!!!」











私を拝む西谷くんを見て「うっわ、礼仁最低〜」と沙奈が野次を飛ばしてきた。












「うるせ!黙れ!」











「はぁ?!やってこないあんたが悪いんでしょ?!」












恒例の2人の喧嘩をいつの間にか私達の輪に集まってきた橋戸くんと一通り堪能すると、私は「もー、しょうがないなぁ、間違ってても文句なしね?」と、宿題の答えが書いてあるノートを差し出す。











そう言った私の顔を見て西谷くんはノートを受け取るなり、バッと両手を広げて抱きついてきた。









「ことはラブ!愛してる!!」










突然抱きしめられて、びっくりした私は「わっ?、」と声をあげる。







が、すぐさま西谷くんの背後に現れた人物が手元のファイルでバコッと彼の頭を叩いた。










突然走った衝撃に西谷くんは私から手を離し自分の頭を抑える。








「痛って〜、お前ら笑ったな?」












とんでもなくいい音がしたのでおもわず笑ってしまった私たち。
それを見た彼は恨めしそうに言った。








だが、彼の頭を叩いた人物を見て、私達はさらに吹き出しそうになる。















そう頭を抑える西谷くんを叩いたのは、他でもない小田先生だった。

















「人に頼むくらいなら遅れてもいい。明日だせ。」











蔑むような目で西谷くんを見ながらそう一言発した小田先生。








「は、はひ…」







小田先生の突然の登場に驚き、そんな情けない返事をした西谷くんには、みんなもう限界らしい。










橋戸くんはついにぶはっと吹き出した。