「帰るか。」






ポツリと先生がそう言ったので、「はい」と返事をすると扉に手をかけた。







が、






「先生、鍵…」










そう鍵が開いていなかった。











「やっぱ馬鹿だね。そのまま帰すわけないでしょ。」











運転席の先生がそうため息をつく。









「お家どこ?送ってく。」









そう言った先生にふるふると首を振り「一人で帰れるので大丈夫です」と断った。







助けてくれるし、
送ってくれようとするし、
なんていい先生なんだ…!










そう感動している私に小田先生は









「大丈夫。借り作っといて後でとことんパシってやろうなんて少ししか考えてないから。」










と、付け加える。










先生、私の感動を返してください。











「ちなみに、言わないつもりならこのままどっか連行するよ」










「誘拐事件ですか?」











「そうそう。身代金要求しちゃうよ」










そんな冗談を言って2人で笑い合う。









この前から思ってたけど、小田先生と話しているととても楽しい。







女子に人気なのはこういうところなのかな?










「うち貧乏だから誘拐されちゃっても身代金払えないんで…」








そう笑いながら住所を教えさせてもらう。








それを聞いて先生はナビに入力した。







なんでだろうな、
先生にはなんだか甘えてしまう。










「数学教科委員野々宮ことは。たくさん働きます。」







言わなくとも働かされそうだけど、なんだかんだ優しい先生に申し訳が立たなくて、そう宣言した。



それも聞くなり先生が笑いながら

「言ったな?」

とこっちをイタズラに見る。








「仕事いっぱい用意しとこ」










なぜか楽しそうにそう言いながらハンドルを握った先生。










走り出した車に、ほんとに送ってもらっちゃうんだ、とふと実感がわく。











「ねぇ、野々宮?」








「なんですか?」









「教えてもらっといてなんだけとさ、家とかもうこんな簡単に教えちゃダメだよ」








ドリンクフォルダに入っていた缶コーヒーをグッと飲み私に変な釘を刺す先生に思わずキョトンとした顔で見てしまった。









「その心は、!」









「いや、整ってない整ってない。」










さすが先生。切り返しが速いです。







心の中でそう感心しつつ笑う私。













そんな私を横に先生が小さく呆れたようにため息をついた事を私は知る由もなかった。