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この高校には
校舎に隣接している駐車場がある。
俺は時々、車で出勤をする。
そんな時にこの駐車場は有効活用していた。
今日の職員会議は長引きそうだったため、車で来ていた俺は今、駐車場に止めてある自分の車に乗り込んだところだった。
買ってきた缶コーヒーを途中まで飲むとカップスタンドに預けハンドルを握った。
駐車場から出て少し走らす。
BGMにはお気に入りの音楽がかかっている。
そんな車内で野々宮の事を考えていた。
夢とは違う彼女。
夢の中では、
憧れに近いものを彼女に抱いた。
手がとどかないからこそ欲しくなるおもちゃみないな…。そんな感覚すらあった。
でも現実の彼女はそんな大層なものではなくて。
馬鹿でドジでアホでイジリ甲斐あって、おまけに鈍感の天然。
ふと浮かぶ彼女の焦ったような顔。
1人でいるにもかかわらず今にも笑ってしまいそうだ。
次に浮かんだのは彼女の笑顔。
アホな癖してあんな顔して笑うから隙だらけなんだよ。
にしても、
あの屈託の無い笑顔はどうも俺の調子を狂わせる。
現に今だって、思い浮かべただけで心臓がうるさい。
と、今俺の思考回路を占領している人の後ろ姿がふと目に入った。
「野々宮………??」
いよいよ幻覚を見るほど頭が可笑しくなってしまったのかと自分を疑う。
だが、彼女のその姿は本物。
正真正銘の野々宮ことはだった。
買い物袋を持って歩く彼女はスーパー帰りだろうか、
頭で考えるよりも早く、俺の手はウィンカーを出しせりに車を付けると車の窓を開けた。
「野々宮!」
突然名前を呼ばれた野々宮は驚いた顔でキョロキョロと辺りを見渡す。
そんな彼女に「おーい、」と手を振った。
にしても、この俺が勤務外に生徒に声を掛けるなんて
むしろ逆に見つからないように逃げてばかりだからな。
「小田先生?!」
そんな事を考えていると、野々宮が俺に気がつきそう声をあげる。
振っていた手でそのまま野々宮にこっちに来るように促すと「なんでいるんですか?!」とこちらに駆け寄ってきた。
「仕事帰り。野々宮は?」
「お夕飯のお買い物です」
そう見せてくれた買い物袋。
「ふーん意外と偉いとこあんじゃん、お母さんのお手伝い?」
そう問うと野々宮は「はい!」と元気に返事をした。
そんな元気すぎる返事の前に見せたほんの少しの影。
それに、いつもなら"意外と"って言葉に反応するはず。
それを見逃すほど鈍くない俺だけど、
なんで元気ないんだ?
だが、今ここで指摘することもないだろうと判断し、
「そっか」
とだけ返す。
ただ、そんな彼女を見て帰してたくない気持ちがそっと顔を出す。
「もう、すぐ帰んの?」
なんとなく、
や、本当にあくまでなんとなくだからな?(笑)
そう聞いてみる。
「あ、別にすぐってわけではないです!どうせ自分の為に作って食べて寝るだけなので」
出たな無防備っ子。
気を使ってそう言ったんだろうけど、
また笑顔だし。
もうちょい警戒しろって。
「じゃあこのままどっか行こっか」
そんな彼女を
しれっとそう誘ってみる。
だが、それを聞いた彼女は
大きな目を細くしてこっちをジロジロ見てきた。
「なんでですか、もしかして学校出てもこき使う気ですか??」
そう聞き返してくる野々宮を見てはたと昨日まで散々教科委員なのをいい事にコマ使いしてきた事に気づく。
それはさすがに俺が悪いなと思いつつも、考えがそっちにいってしまう野々宮が無防備で、なぜか可愛く見えて、
思わず笑ってしまった。
まぁ、本当にほっておけないわ。
もし相手が俺じゃなかったらつけこまれそうだし。