ポチャ…ン








冷たい






そんな言葉が頭をかすめる






気付くと俺は、膝下くらいまでの深さの湖の中で立ち尽くしていた。






辺りは霧が立ち込めていて寸分先も見えない







何かを探しに来た様な気がする





ただ、何を探しに来たのか思い出せない







そんな行く宛もないまま
俺は進む事を選んだ。






霧で遮られた視界と、
いつ湖が深くなってすくわれるか分からない足元に
少なからず不安を覚えながら進む。







霧の中、前だけをしっかり見て水の中動かしづらい足を懸命に動かした







もっとも、深い霧のせいで
前も後ろも右も左もわからないんだけどね





そんな中、そよ風が頬をかすめた。





風…?







今まで無風だったこの空間に感じられた涼しさに違和感を覚えたその次の瞬間、







ゴォォオッという荒々しい音と共に強風が俺を押し戻そうとした。







瞬時に足元を踏ん張る

自分を守ろうと顔の前に構えられた両手とつぶられた目。





過ぎ去っていった風に1つ息をつくとゆっくりと目をあけた。












そんな俺の目に飛び込んできたものは緑の草木が広がる草原。








さっきの風で霧が晴れ、見晴らしのいいものとなったこの空間は自然に溢れた湖だった。








だが、それ以上に俺の目を釘付けにしたものが目の前に存在した。







それは、
1人の女の子だった。







その子はいかにも不思議そうにこちらを見ている。






目がしっかりと合った状態のまま、
そらす事ができない。














吸い込まれるように彼女を見る。







ふわっと重力を感じさせない肩下まで伸びた栗色の髪の毛。


どんな嘘でも見抜いてしまいそうな大きな丸い瞳。


天に向かって伸びる長いまつげ。


小さくて小柄な身体。


柔らかい生地のワンピースから伸びる手足は細く、弱々しくそれでいて綺麗だった。










天使。








その一言だけが頭に浮かんだ









きっとこの子は天使なのだろう





そう決め付けて止まない


いや、君のその姿が単なる想像を確信にかえる。








不思議そうな顔から困った顔へと徐々に変化していった彼女の表情に
どんな感情なのか、なんともただただ胸が締めつけられる。






「あの……」








意識とは別のところで自分の口から自然と声が発せられた。






だが、その一言にビクッと肩を揺らした彼女はくるりと栗色の髪の毛を翻し俺から逃げる。








「……っ、まって!」







バシャバシャと水音をたてて必死に湖の中を走る俺。







その時、ある事に初めて気がついた。







彼女は、湖の水面に立っていた。









彼女の足元にだけ光をおびている。


きっと、なにか地球外の力が彼女の小さな身体を浮かせているのだろう。


その光にのって、彼女はふわふわと走っていく。









追いつけない










胸がさらに締めつけられた









小さくなっていく彼女の細く繊細な背中に手を伸ばす








行かないで…!!













「行か…」ピピピピピピピピピ!!!!!