そんな彼女に免じて(というか屈してかな。)助け舟を出した。












「じゃあ野々宮ギブアップみたいだから、特別ルール。残りの時間は自己紹介者への質問タイムにする。
下品な質問すんじゃねーぞ?
質問する側のセンスも問われるからな」



















特に男子をに睨みつつそう提案をすると「はい、はーい!」と元気良く何人かの手が上がった。













「野々宮、当てていいよ」















そう彼女にふると少し考えて斜め前の男子を指した。













もっとも、手を挙げてるのはほとんど野郎だがね、









当てられた男子はその瞬間間を空けずに声を発する。









「野々宮さん彼氏いますか!」















その質問に教室が一気に沸く。











そして、そこにいた全ての奴らの意識が野々宮に集中した。












「野々宮、答えるの嫌だったら左手あげてね?」と、曖昧にフォローしたが、それは俺もちょっと気になるところ。












俺の言葉に「それ、なんか歯医者さんみたいです」といって笑った野々宮。













それが、
俺が彼女の笑顔を初めて見た瞬間だった。













垂れ下がった目尻にぷっくりと盛り上がる頬、形のいい唇は薄く伸ばされた。













楽しそうな彼女の顔に心臓がこれみよがしに高鳴り始める。










なに簡単にやられてんだ俺は…







言う事を聞いてくれない心臓に項垂れる。
が、嫌な気分ではないのが事実。














なぜか妙に満たされた気分になる。












何かが俺の空いていた部分を埋めたようなそんな感覚。















彼女の笑顔には普通の人間にはないすごい力があるのではないかと疑いたくなった。














まぁ、俺以外もみんな野々宮の笑顔に引き込まれているのが手に取るように分かって、多少イライラするけど。
















でも当の本人は何もわかってないようだ。







彼女の性格のデータベースに、
"鈍感"が書き加えられた瞬間だった。












そして、彼女はいとも簡単に質問の答えを言った。









「彼氏、いないです」










へへっと気の抜けた笑顔付きでそんなことを言うから。











この教室は一人の赤ずきんとそれを囲む狼の群れと化したようなそんな感覚に陥った。









おめでとう。
今から君のデータベースには"無防備"と"天然"も付け加えられたよ。












だいたい揃い始めたデータベース、



鈍感、無防備、天然。









そんな隙だらけの彼女を、

さぁ、どうやって俺の所に繋ぎ止めておこうか

そう考える俺は、











まったくどこにネジを落としてきたんだか。














ピピッピピッ










そこで調度5分を知らせるタイマーがなる。











野々宮はホッと一安心したかのように胸をなでおろして「よろしくおねがいします」という一礼を残して席に座った。