振り向いた先にいたのは、巡回中の警察なんかじゃない、ごく普通の若い男性。



「こんな夜遅くに1人? 危ないなぁ。俺が家まで送って行ってあげようか?」



 いかにも親切を装っているけれど、向けられた表情は気味の悪い笑みで、嫌悪を抱くには充分なもの。

 竹刀入れを握り締め、一歩、後ずさった。



「どうしたんだい? こっちにおいで」



 差し出される手。

 二歩、後ずさった。


 脳内で警鐘がかき鳴らされる。

「今すぐ逃げろ」と。

 それなのに、足は地面に貼りついたまま。



「何が怖いんだ? こっちにって言っているだろう、ほら!」



 声音がにわかに苛立ちを覚える。

 暗がりの中伸びてくる、男の腕。



「いや……っ!」



 腕を掴まれ、目をきつくつむった瞬間、


 パシンッ!


 乾いた衝突音と、男のうめき声。