「……め……」


「ん?」



 それまで正確な呼吸を繰り返していた口が、なにか言葉を紡ぐ。



「ごめ、ん……やくそく……守れなくて……」



 長いまつげから、透明なひと雫が彼女の白い頬を伝う。


 その清廉さは、僕が罪悪感を覚えることさえ許さないと言っているようだった。



 せっかく杖役が板についてきた手を、あっさりと伸ばしてしまう。


 だけど心はちゃんと鬼にして、そよ風が吹くみたいにそっと彼女の頭を撫でた。


 すると、ひどく安心した様子で頬をゆるめた彼女の、規則正しい寝息が聞こえてくる。



 この安らかな寝顔を、ずっと守っていけるんだな。


 考え方を変えただけで、むなしかったことが、とたんに幸せなことであるようなが気がした。