「ともかく! あのときは大会を控えていたから、近くの道場へ試合に行ってた、その帰りだよ。本当に、間に合ったからよかったものの……」


「すみません……」


「いい? 断ったって連れ帰るから。君に何かがあったら荒れ狂う。絶対」



 説教っぽく言っていたけど、声を上げて笑う表情にかげりは見られない。


 うー……。これはもう、抵抗しても無駄なのでは?



「ほら、行こう!」


 
 差し出される手は、あの日、あの夜に私を助けてくれた手と同じ。


 見上げると、穏やかな琥珀色の瞳に吸い込まれる……。


 断れるはずがない。

 こうなることを望んだのは、誰よりも私自身なのだから。


 差し出された手を取る。

 大きな手は優しく、それでいて力強く握り返してくれる。


 月明かりの下を、2人並んで歩き出す。


 会話はないけど、ただそれだけで満足だった。