「……え」


 つられて目を開く。


 誰かの背中が見えた、次の刹那。



「ぐっ!?」



 うめき声を上げて吹っ飛んだ、長谷川先輩。


 私の前に、誰かがいて。


 夜風に揺れる黒髪。

 細身のシルエット。

 月明かりが、その人物を照らした。



「……まったく、君も無茶をする」



 振り返った優しい笑顔。

 私の代わりに月明かりを受けていたのは。



「『若葉』も『俺』も信じようとするなんて、欲張りだな。……本当に」  


「…………わかば、くん?」



 あぜんとする私に、彼は自嘲気味に笑った。



「傷つけないために遠ざけていたのに。……本当に馬鹿だったのは、自分を隠して、君に寂しい思いをさせてしまったことなんだな。俺は大馬鹿者だ」