私の顔を真っ直ぐに狙う拳が見えた。


 ゆっくりと目をつむる。

 不思議と恐怖はなかった。


 心は静まり、闇に包まれる。

 感じる。ひそやかな気配、あの月の光を。


 お月さまはいつだって、私を守ってくれる。


 それだけじゃない。

 今の私には、心の支えになってくれる人がいるの。


 だから怖くなんかないよ。

 私は、逃げないから。



「食らえ!」



 拳が真っ直ぐに空を切る音。

 その軌道を顔面に感じる。



 ――今こそ勇気を。



 ぐっと唇を噛み締め、足の裏に力を入れた。

 そして――





 月明かりが、遮られた。