「………………」



 彼女の知っていることは、ほんの序の口に過ぎない。

 だが。



「もう僕は子供じゃない。ここには、僕を好いてくれる人がいる」



 彼女のそれが、僕の持つ感情とは違っていたとしても、あのときとは違う。

 ……大切な人を、もう独りになんかさせない。


 しばらくの沈黙が流れ、聞こえてきたのは嘆息だった。


 ――なら、明日は1日中晴れるといいな。


 それは、よき登校日和を願ってくれる言葉ではない。

 言外に言われた。

 ならば、逃げるなよ、と。


 ――明日は満月だからな。


 追い打ちをかけるように付け足す父は、非常に性格が悪い。

 通話を切り、息を吐きながら無機質な壁にもたれかかる。



「…………僕が月嫌いなの、知ってるでしょ」