「今なら僕たちだけで黙っておきます。しかし退かないようであれば、不当な暴力行為として先生に報告します。

 退くか否か。――大学受験を控えてらっしゃるなら、どちらがよりよいか、わかりますね?」



 それは、勝負の見えた取り引きだった。



「……ちくしょうっ!」



 髪を掴んでいた手が離れる。


 男子生徒の走り去る後ろ姿が、あっという間に見えなくなる。


 ……解放されたんだ。


 膝から崩れ落ちるところを若葉くんが抱き留め、咳込む背中をさすってくれた。

 若葉くんは何も言わない。

 不思議に思ったけど、今の状況を考えれば当たり前のことか。