皮膚同士の激しい衝突音が鳴り響いた。

 でも私じゃない。

 痛みは、一向にやってこない。



「――女性の髪を許可なく、それも乱暴に扱うのが、この学校の校訓ですか?」



 ゆっくりとまぶたを上げ、瞠目する。

 男子生徒の拳をギシリと掴んで放さない人物は、紛れもなく若葉くんだった。



「いくら遠藤さんが心配だからとはいえ、下級生に謝った伝統を伝えてしまいますよ。3年F組、長谷川先輩」



 耳に届く声は丁寧。

 けれどやわらかさなんて欠片もないほど、厳しいもの。



「くっ、 この……っ!」



 長谷川と呼ばれた男子生徒が若葉くんの手を振り払おうとするが、掴んでいる左手はピクリとも動かない。

 若葉くんの細い腕にそれほどの力があるなんて、予想もつかなかった。