私は樹を見て頷くと、名刺を鞄にしっかりとしまった。
樹はそれを確認すると、古ぼけた家の引き戸をガタガタと音を立てて開いた。
「どうぞ、お嬢さん。」
そう言って、中に入るように私を促す。
玄関に乱雑に脱ぎ捨てられた靴を見て、私はちょっとげんなりとした。
汚い場所に入るのも嫌だったけれど、私はゆっくりとその家に入った。
家に入ると、独特の匂いが鼻につく。
私はその匂いに吐き気が込み上げたけれど、何とか平常心を保った。
数人の下品な笑い声に紛れて、か細い泣き声と呻き声が混ざった声が聞こえていた。
その音は酷く私の心を乱す。
その音や声だけで凛が何をされているのか、簡単に想像出来てしまった。
樹は靴を乱暴に脱ぎ捨てると、奥の方に向かって歩いて行った。
私も樹の背中を憎しみを込めて睨みつけながら、その後に続いた。
一番奥の扉の前で樹が立ち止まったので、私も一緒に立ち止まる。
樹は私をちらりと見ると、厭らしい笑みを浮かべてから、その扉をゆっくりと開いた。
その瞬間、私の視界に映ったその光景のあまりの凄惨さに、私は思わず息を飲んだ。
途端に煙草の匂いと男女の"それ"の匂いが入り交じった不快で穢らわしい空気が私を包み込む。
思わず息をするのを躊躇うほどのその状況に、私は言葉すら出なかった。

