“仕方ないだろ、お前は一応俺の籍に入ってる。娘だからな。”


月島省吾という、顔も分からないその人は笑いながらそう言った。

何故かその優しさに私は泣きそうなくらい感謝した。


「ありがとうございます。必ず、ご恩は返します・・・」


“堅苦しいヤツだなお前は。リサの教育のおかげか。とりあえず、家は決めておく、明日10時に迎えに行くから、ちゃんとお父さんと呼ぶ練習くらいしとけよ。”


その人はそう言うと、唐突に電話を切った。
一体どんな人なんだろうかと思ったけれど、ママをリサと呼ぶ程の知り合いだったんだと思うと、何だかとても安心出来た。


私はそれから、言われたとおりに荷物の整理を始めた。
持って行くものには紙に○を書いて、要らない物には×を書いてどんどん貼り付けた。

洋服や下着なんかも全部引っ張り出して、必要最低限の物を畳んでスーツケースに纏めた。
その作業は結局夜が明けるまで続いた。

私はまるで夜逃げでもするような気分だったけれど、その手を休める事はなかった。

身体は多分限界を超えるくらい疲労困憊だったけれど、何故か頭はすっきりとしていて、引越しが終わったらきっと暫く寝込む事になりそうな気がして仕方なかった。

粗方荷物を纏め終わると、時刻は朝の8時半だった。

とりあえずシャワーくらい浴びようと、私はそのままバスルームに向かった。