なんだか全てが一瞬で、私は全く何が起こったのか信じる事が出来なかった。
だけれど瞳を開けば、それが現実だと理解するのには充分過ぎるほどの静寂が辺りを包み込んでいた。
私は涙を堪えてゆっくりと立ち上がると、今朝までママが居たはずのキッチンに視線を移した。
いつもみたいに、レオンを叱るママに、それを冷めた目で見ているシオンが見えた気がした。
だけれどそこには、もう誰も居ない。
誰の声も聴こえない。
私は目を閉じて、耳を澄ませた。
微かに聴こえてきたのは、壁に掛けられた時計が秒針を刻む音だけだった。
ねぇ、アンナ。
あなただったら、何が聴こえるの?
あなただったら、どうしたの?
私は頭の中でそう呟いたけれど、やっぱり何も聴こえてくることはなかった。
勢いだけで、選択をしてしまった。
独りで生きていくくらいなら、殺された方が幸せだったのかもしれない。
だけれど私はそれを選べなかった。
なぜなら、この身体は私だけの物じゃないから。
シオンがおかしくなった時、子供が出来たらこの家に残る事が出来ると言ったのは、きっとシオンは先を見据えて居たからなのだと、私は今更になって気がついた。
シオンは何時でも、そうやって私を守ろうとしてくれていたんだと、気がついた。

