「大丈夫です。多分私を待ってるのかもしれないですし、開けてください。」


私はにっこりと笑って岸谷さんにそう言った。


「本当かい?」


「ええ、この前の発表会でも会ってますし。」


疑り深く聞いてくる岸谷さんに、私は相変わらず笑顔でそう言った。


「それなら、良いんだけど。」


岸谷さんはそう言って、マンションの扉を開けてくれた。


「何かあったら通報するから、直ぐ内線で知らせてね。」


岸谷さんはマンションに入る私にそう言ったけれど、万が一そんな事になったら岸谷さんが危ないだろうと私は思った。


高鳴る心臓が酷く痛んだけれど、私はシオンのように感情を押し殺した。

これから対峙しなければならない相手は、きっとシオンなんか比べ物にならないような人物なんだろう。


いくらママが居ても、シオンやレオンが居ても、きっと何の助けにもならないのだと思う。

エレベーターのカードキーを通すと暗証番号を打ち込む指先が震えた。
一言でも間違った答えを私が出したら、その人は私を躊躇することなく殺すんだろう。

だけれどそれならそれで仕方がない。

私はやって来たエレベーターに乗り込むと、15のボタンにそっと触れた。

一体何が起こっているのか、せめてそれだけは自分の目で確かめたかった。