叶う。 Chapter2





アンナもたまに、芸能事務所なんかにスカウトされている事があった。

だけれど大抵のスカウトマンは、先ず事務所の名前を先に出して警戒心を解いてから、話をしようとする。

だけれど二ノ宮さんは何か違う気がした。

オーラというか、話しかけ方というか、何か普通のスカウトの仕方じゃなかった。

それは何となく好印象だったけれど、私には無縁の話しだ。


今はそんなくだらない事を考えてる余裕なんて、私にはないのだから。


私は鞄から携帯を取り出すと、ヘッドホンをつけて久しぶりに音楽を聴いた。
耳に流れ込むメロディは心地よく、久々に聞いた英語の歌がなんだか懐かしく感じた。



音楽を聴いていると、30分と言う時間は物凄く短く感じる。
さっき聞き始めたばかりだと思ったのに、気付いたら学校の駅に着いていた。

私はヘッドホンを外すと、携帯を鞄にしまいながら駅の階段をのんびりと降りた。



「おはよう。」


いつもの様に改札を抜けると直ぐに、和也の声が聞こえてきた。


「おはよう。」


私は和也の方を向いて笑顔で挨拶をした。
和也の顔を見ると、何だかすごく悲しい気分になってしまったけれど、それを悟られちゃいけない。

私に近づく和也はいつもみたいに右手を私に差し出した。

私はその大きな掌に、自分の左手を重ねた。
いつもと変わらないその温もりに、なぜか心が痛くなった。