「あの、申し訳ないのですが貴女はどちらさまですか?私、お会いした記憶がないんですが。」
私はなるべく嫌味に聞こえないように言葉を選んでそう聞いたけれど、何だか言い方が刺々しくなってしまった。
「えぇ、会った事はないわね。私があなたを見ていただけだから。」
二ノ宮さんはそう言って笑顔を見せた。
「私、初めてあなたを見た時から思っていたの。この子はきっと大物になるって。音楽は好き?」
私は益々意味が分からなくなって、思わず首を傾げた。
「とても綺麗な声をしているから、音楽が好きかなって?」
「ずっとピアノをやってますから。」
「あら、そうなの?じゃあソルフェージュも?」
私はほんの少しだけ、警戒心がとけた気がした。
それは普通の人はあまり口にしないソルフェージュという単語が二ノ宮さんの口から出たからだと自分でも思った。
「・・・はい。」
私がそう言うと、二ノ宮さんの少しきつめの目付きが柔らかくなった気がした。
「お名前聞いても良いかしら?」
二ノ宮さんの言葉に私は躊躇した。
「あぁ、ひょっとしてまだ警戒しているの?用心深い事はいい事ね。私は芸能事務所関係者なの。そして今、あなたをスカウトしたくて声を掛けたのよ。」
芸能事務所?
聞きなれないその言葉と、私との関連性を考えたけれどその繋がりは今は必要ない。

