「少し・・・時間が欲しいの。」


私がそう言うと、シオンは寂しそうに視線を逸らした。


「・・・お前の幸せを願ってるよ。」


「・・・うん。私もシオンの幸せを願ってるよ。」


「・・・・そろそろ眠ったほうが良い。」


シオンはそう言って立ち上がると、私の額にキスをした。


それがおやすみの合図である事を、私は知っている。
シオンの体温も、その唇の柔らかさも、私は知っている。



途端に泣きたくなったけれど、私は涙を見せないように俯きながらシオンの部屋を出た。


部屋を出た途端、声が漏れないように口元を両手で押さえた。

何故こんなにも悲しいのか自分でも分からなかった。


だけれどもうシオンの前では涙を見せる事はしたくなかった。
私なんかより、きっとシオンの方が泣きたい気分に決まっているのだから。


流れ落ちる涙が邪魔をして視界が歪んだけれど、私はなんとか自分の部屋に辿り着いた。


そして直ぐに日記帳を取り出した。

日記帳は涙で濡れて、紙がしわくちゃになってしまったけれど、私は今起こったこと全てを文字にした。

忘れないうちに、シオンの言った言葉全てをその日記に綴った。

そして私が言ったこと、大切な約束のこと、その全てを書き終えると、またきちんと鍵を掛けて机にしまった。


いつの日か、誰よりも幸せだと言えるように願いを込めて。


私は額の前で手を組むと、目を閉じて祈った。