あの出来事が起こったのは、今から8年前だった。
それはシオンが退院する前日だった。
アンナはいつものように、病室のベッドの上で絵本を読んでいた。
その本が何だったかは思い出せないけれど、アンナはその本を夢中になって読んでいたのを覚えている。
不意に病室の扉がノックされた音がして、アンナはその本を枕の下に慌てて隠した。
別に取り上げられるわけでもないのに、あの頃のあの子はまだ母親の呪縛から逃げられずにいつも何かに怯えていた。
病室の扉を開けたのは、モノクロの世界から見ると真っ白の髪にグレーの瞳をしたシオンの姿だった。
アンナはシオンを見ると、ニッコリと笑顔を向けた。
シオンは病院の中庭で摘んできた花を、アンナに手渡した。
アンナはその花束を頬に寄せると、その花の香りを吸い込んだ。
「きれい。」
アンナはシオンにそう言って、その花をじっと見つめてた。
シオンはそんなアンナを優しい眼差しでずっと見つめていた。
シオンは花を夢中で眺めるアンナのベッドの端に腰掛けると、足をブラブラとさせながら、俯くアンナの髪を優しく撫でた。
だけれどシオンはそんなアンナを見つめながら、寂しそうにこう言った。

