「さぁ、ここでいいかしら?」
憂鬱な私の気分とは裏腹に、ママはご機嫌そうに家具屋さんの駐車場に車を停めた。
私はシートベルトを外して車を降りると、鍵を掛けたママと手を繋いでそのお店に向かった。
広い店内には、沢山の家具が所狭しと並べられていた。
小さくついた値札を見ると、普通の会社員が一年働いてやっと買えるような値段の物ばかりで驚いた。
こんな値段の物を買う人がいることに驚いたけれど、考えてみたら直ぐ隣にその人物が存在することを思い出した。
私は丁寧に展示されている家具にぶつからないように、ママに着いてソファが展示されている場所まで歩いた。
「いらっしゃいませ。」
私達がソファを眺めていると、低くて渋い中年の男性の声が聴こえてきた。
ママがそっちを向いたのでつられて私もその人を見た。
「おぉ、月島様。お久しぶりでございます。」
その少し猫背気味の、何かの童話にでも出てきそうな背の小さい中年の男性はどうやらママを知っているらしい。
「波多野さん、ご無沙汰してます。」
ママはにっこりと笑顔でその人に挨拶をした。
ママは仕事柄か、人の名前を一度聞いたら忘れない。
だからママはきっとこのお店に一度は確実に来たことがあるんだろうと思った。

