それからあの子は私と入れ替わった。

シオンは一瞬で私を見破ったけれど、それでも毎日じっと私を監視し続けていた。

だから最初は私に普通に接していたし、優しさすら見せていた。

だけれど一ヶ月経っても、あの子は姿を現さなかった。

それで今度はシオンの心が限界を迎えたんだ。


あの子はシオンの心を、シオンはあの子の心を、お互い支え合って自分達の中に眠る別の人格を抑えていた。


それが崩れ去った今、元通りに戻す方法はあの子が目覚める事でしか、もう解決する事は不可能だろう。

だけれどあの子は目覚めない。

それに目覚められても困る。

シオンの存在は怖いけれど、私はまだ復讐することを諦めていない。

シオンが言った選択肢は二つだ。

あの子を目覚めさせるか、共に堕ちていくのか。


堕ちてしまうしかない。

例えそれが奈落の底だとしても。

もう2度と這い上がれなくてもいい。


どれだけ汚い手を使っても、私は復讐を成し遂げる覚悟を決めた。


だから私はもう一人のシオンと上手くやっていかなきゃいけない。


“北川叶”の過去を、シオンは知っているのだから。


それに、私が余計な事さえしなければきっとシオンは私に手を貸してくれるだろうと思った。

例え今は機嫌が悪くても、私が普通にしていればシオンも普通にするだろう。


シオンは馬鹿じゃない。

ほんの少しでも、私があの子に戻る可能性がありそうな事は全て試すだろう。