だけれどシオンの口から出た言葉に、私は驚いたと同時に何故かさっきよりも更に心の中を掻き乱された。




「………それはお前の為だ。」



突然発せられたその言葉に、私は自分でも分かるほど動揺した。
何故か全身が震えるし、呼吸も苦しくなった。

なぜ犯罪を犯す事が私の為なのか意味が分からないし、どうしてそこに私が出てくるのかが、理解出来なかった。


「な……ん、で?」


私は声が震えないように言葉を発したけれど、残念ながら誰が聞いてもその声は震えていた。



「お前を引き取る時の条件だったからな。」


「……だ、誰か、らの?」



私がそう言うと、シオンはその名前を言うのが酷く不愉快だと言いたげな顔をした。
だけれどしっかりと私と視線を合わせると、誰にも聞こえないくらい小さな声で囁くようにこう言った。



「……親父だ。」



私はその言葉に絶句した。

この家に引き取られてから、その存在は見たこともなければ聞いたことすらなかった。
だけれどシオンは確かにその存在を認める発言をした。

いきなりの事に、私は混乱して思考回路はその活動を停止した。


この家に引き取られてから8年。

初めて聞いた父親の存在は、なぜか私にとてつもない恐怖心と混乱を引き起こした。


さっきシオンに注意された通り、知らなくても良い事がこの世界には存在するのだと、思い知らされた気分になった。