その後、私はシオンに連れられて貴賓席に戻った。
演奏は相変わらず滞りなく継続している様子だった。
私が戻ると、ママと先生が心配そうな顔付きで私を見つめてきたけれど、私は笑顔で小さくこう言った。
「緊張しすぎちゃって。でももう大丈夫。」
私がそう言うと、2人とも安心したような顔をした。
そして私はシオンの隣に座ると、審査員席に座るあの男をじっと観察した。
ステージでは、もう小学校低学年の子が演奏を始めていた。
白髪が混じった髪を音楽家らしく少し長めにしてオールバックにしたその男は、審査員席の中央に居た。
目を細めて演奏する女の子を見つめるその瞳は、まるで獲物を狙う蛇みたいだと思った。
立派な髭を綺麗に整えているその姿は、子供の頃見たあの男のまま変わらなかった。
だけれどさっきはあんなに動揺していたのに、今は冷静にあの男を真っ直ぐに見つめる事が出来る。
隣で私の手をさり気無く繋いでくれているシオンも、おそらく私の視線を辿ってあの男を見ているような気がした。
あいつの声を思い出し一瞬寒気がしたけれど、シオンが気付いて背中を優しく撫でてくれたので、私はまた落ち着きを取り戻した。
いつもはうざったいとすら感じるシオンに、こんなにも親近感を持つなんて、私は自分でも少し驚いた。

