叶う。 Chapter2





「……どうした?」


トイレを出た瞬間、聞きなれた冷たい声が私の耳に聴こえて来た。

私はゆっくりと顔を上げると、その声の主をじっと見つめた。


「気分が悪いのか?」


その人はそう言って私を冷めた目で見つめ返した。
その冷たい蒼い瞳は、全てを見透かしているようで大嫌いだったけれど、私は咄嗟にその胸に飛び込んだ。

自分でも混乱している事は分かってた。
だけれど、私と言う存在を知っているその人なら、何故か分かってくれるんじゃないかと思った。


急に抱き着いた私を、その人は何も言わず優しく抱き寄せた。

いつもは大嫌いな香水の匂いも、その身体の温かさも、何故か今の私には自分でも驚くほどの安心感を与えてくれた。

暫く無言で抱き合っていたけれど、私は必死に涙を堪えて訴えた。


「シオン……私、ひ、弾けない。」

「……何故?」

「あ、あいつが……あいつがいる、の。」

「……アイツ?」

「わ、私を、買ってた、の……」


自分でもどう伝えたら良いのかすら、頭になかった。

ただ、なんとか理解して貰いたくて必死に出た言葉は、あの子と同じ辿々しい言葉だけだった。

シオンはそんな私から身体を離した。

その瞬間、何だか見捨てられた気分になったけれど、シオンは私をじっと見つめながら何かを考えている様子だった。