中央に置かれたグランドピアノから、自然と審査員席の方へゆっくりと視線を動かす。
その瞬間、私は自分の目を一瞬疑った。
まさか、そんなはずはない。
これだけ距離が離れているんだから、絶対に見間違いに違いない。
だけれど私はその人から視線を逸らす事が出来なかった。
心臓はさっきとは比べ物にならない程に、大きく脈を刻んでいる。
途端に動悸が激しくなって私は短く浅く呼吸を繰返した。
全身から嫌な汗が噴出して、両手と両足が無意識に震え始めた。
だけれど視線は逸らせずに、私はずっとその人物を見つめ続けた。
次第にクリアになる記憶が私の心を支配して、黒く侵食していくような感覚に思わず奥歯を噛み締めた。
そうしていないと、前歯がカタカタと音を立ててしまいそうなほどに、私は制御出来ない震えを起こしていた。
あの子と一緒に何度も審査員席を見ていたはずなのに、何故今まで気付かなかったんだろう。
だけれどあの子はピアノに夢中で審査員なんて視界に入れてすら居なかったことを微かに思い出した。
それにあの子は知らないはずだ、アイツが獣で自分が何をされたかなんてきっと思いもしなかっただろう。
色があるだけで、私の記憶は鮮明に蘇った。
“かなうはとってもいい子だね”
そう言って私を膝に乗せたあの男が、なぜあの場所に居るのか私には理解出来なかった。
何よりも急激な震えと吐き気が止まらない。

