変化ないまま

1週間

この3ヶ月ほど、健ちゃんのベンチに
1度も座っていない

それどころか、ベンチを見もしなかった

今日の昼休みは、結が中庭にいて

ベンチを見ていた

昼飯も食べず…ただ見てた


俺の席から、結の表情が見える


心に空いた穴のせいか、何の感情もない


空を見上げ、視線をベンチに戻した後
結が走り出す


途中、浩一にぶつかる


「七瀬!」


浩一が追いかける

校舎で2人が見えなくなった


何かある…


俺も松本も教室を飛び出した


キキィーーーーーーーー!!!


車のブレーキ音と


「キャーーー!!!」


結ではない女の悲鳴


「バカヤロー!!あぶねぇーだろ!!」


怒鳴る男の声


トラックのそばで、浩一に後ろから

抱きしめられてる結がいた


「七瀬… こんなになるまで我慢すんなよ
俺ら…仲間だろ?
お前、1人で悩んでんじゃねぇよ!!
頼ってくれよ!!」


浩一が泣いてる


結は……空っぽだ

人形みたいだ

浩一の言葉も届いていない


「結……」


そばに行くと浩一が、俺に結を押し付ける


「怖かった…七瀬…死ぬかと……」


浩一は松本の肩に、頭を埋めて泣いた



「結、ごめんな… 」


そう言って抱きしめた

他に言葉が見つからなかった



まわりに、たくさん生徒が集まって

先生達も駆けつけて



菅井が

「七瀬!教室に戻れ!」

そう言った途端、結が動き出した

まるで、操り人形のように菅井の声に

ふらりと立ち上がり、教室に向かっていく

こんなのおかしい!



この騒ぎがあり、次の授業は全学年が

担任と話をするようになった

俺らのクラスは、浩一から事情を聞くことから始まった


「俺が寮から教室に戻る時、中庭で七瀬が
空見てて、ああ月命日かって思ってみてたんだ。
それから、ベンチ見た後にすっげえ悲しい顔して走り出したから、追い掛けないとって…
まさか……トラックに飛び出していくとか……思ってなくて……ごめん……思い出したら、怖え……七瀬…死ぬかと思って
夢中で引っ張って…死ななくて良かった…」


「森重!ごめんな…
俺の力不足なせいで、怖い思いしたな」


「佐山は、良くやってるよ!!
俺……やっとわかった……
自分の身近な人が、亡くなる恐怖…
七瀬が入院したとき、わかった気になってたけど…
比べものにならねぇ
健ちゃん亡くして、七瀬…どれだけ
我慢して、笑ってたのか…
どれだけ、俺ら…我慢させてたのかな…」


浩一の言葉に皆が下を向いた


「七瀬…我慢とかする奴じゃねぇよ!
今は、無理してこのクラスと距離を置くために、わけのわからねぇ我慢している!
このクラスにいる時の七瀬が本物だ!
お前ら、御守り袋持ってるだろ!!
看護婦さんが言ってたよ…
手術受けるまでは、いつ死んでもおかしくない状態だったって…
普通は、起きてられないはずなのに
命がけで、御守り袋を作ったって…
このクラスが好きだから、出来たんだろ?
七瀬は、このクラスにいないと素直になれないんだ
皆がいたから、ベンチに座る勇気も出たんだ…」



どうしていいか、何をしてやれるのか

何もわからなくて

悔しくて泣いた



今すぐ取り戻したい!!



悪魔の操り人形なんて、結らしくない!!