二重人格の狐と多重人格のマリオネット

その夜、少女は昼間の少年のことが頭から離れず、眠ることができなかった。
大樹にポッカリ空いた穴に身を隠し、蹲る。
今は月の光に照らされることでさえ少女は
怖かった。

助けなければ良かったのだろうか・・・。
でも、あの少年を放っておく事などできない。
どうすればいい?どうすれば少年の瞳から悲しみと孤独の色を消すことができるのだろうか・・・。

《そんなにアイツが気になる?》

不意に頭の中で青年の声が響いた。

(うん)

《珍しいじゃないか、アンタが他人に興味を持つだなんて》

(自分でもよく分からないよ・・・どうして彼を
放っておけないのか・・・分からない・・・)

感情を持たず、ただ人を殺めるためだけに生きてきた少女には この気持ちになんて名前がつくのか分からなかった。
単純に助けたいという庇護欲からなのだろうか?
いや、半分違う気がする。
何が違うのか分からないけれど、きっと違う。
うーん、と頭を抱えた。

《いぃんじゃない?あなたの好きにようにしなさいよ、良い事だと思うわよ?感情を持つことはいけないコトじゃないもの!》

今度は女性の頭の中で響いた。

(いいこと、なのかな?怒られてしまったのに・・・)

《単に恥ずかしかったんじゃなくて?女の子に助けられただなんて、男のプライドが許せなかったのよ多分》

《おい、血腥(ちなまぐさ)いぞマリー・・・》

青年が嫌そうにそう言うと、マリーと呼ばれた女性はケタケタと笑った。

《あん、ごめん遊ばせ?アイツらムカつくから殺しちゃったのよ!》

マリーが悪びれるわけでもなく軽い調子でそう言うと、あぁ・・・と青年と少女は納得する。

《まぁ確かに煩かったな・・・人格風情が主に歯向かいすぎ》

(何人殺したの?)

《んー・・・10人、かしら・・・覚えてないわ》

(そう・・・)

特に気にするわけでもなく少女は月を眺めた。
月が明るい・・・。
ただそれだけなのに怖いと感じるのは、きっと自分でも気づけない感情を見透かされているようで嫌だからだ・・・。
はぁ・・・と短く溜息をつき項垂れる。

《ま、助けるも助けないもアンタの好きにしな》

《そーよ、あの坊やに言われたことを鵜呑みにしなさんな、あなたの好きなように動きなさい。もう縛るモノは何もないんだから》

そうだ
ボクを縛り付けるモノは何もない。
自由になるために、あの真っ暗な世界から逃げ出すためにここまで来たのだから。
どんな理由であれ、彼を助けたい。
自己満足だと思われても構わない。
この広い世界で化物はボクだけでいい。

(うん、ありかとう・・・クラウン、マリー)

どういたしましてと口を揃えて言う2人は、顔は見えないけれど微笑んでいるような気がした。