少年は自宅まで一度も止まることなく走った。
そうでもしなければドロドロと混ざり合った感情に押し潰されそうで怖かったのだ。
自宅に着くとそのまま自室へと駆け込みベットへ身を投げた。
あぁ・・・どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。
そう思っても後の祭り、彼女は自分が言った通り一生姿を現すことはないだろう。
今まで誰も助けてくれなくて、ただただ苦しみに耐える事しか出来なくて・・・。
母が数年前に他界し父と二人で暮らしてきたけれど、父は怪我をして帰ってきた息子の心配をするだけで助けてはくれなかった
。
いつか、誰かが自分をこの耐え難い闇の中から救ってはくれないかと祈っていた矢先に、あの少女が現れた。
正直に言ってしまえば単純に嬉しかった。
一瞬だけでも救われたと思った。
けれど所詮は他所者だ、真実を知れば彼女も村の奴らと同じような目で自分を見ると思うと途端に突き放さなければと考え、あのような事を言ってしまったのだ。
「・・・クソッ」
自分が言ったこととはいえ虫酸が走る。
あぁムカムカする。
折角知らなかったとはいえ、こんな自分を助けてくれたのに 恩を仇で返すようなことをしてしまうなんて。
クソッ クソッ クソッ!
《ははっ残念なことをしたなぁ?やすやすと闇から救い出されるチャンスを自ら失うなんて・・・滑稽だな?》
(うるさい)
《でも助けて欲しいなんて考えは捨てるんだな?これは村を襲ったお前への罰なのだから》
(知るかそんなこと、俺は何もしていない)
《俺たちは化物だ、人の肉を好む大妖怪 羽衣狐様だ》
(俺は人間だ、羽衣狐じゃない)
《何言ってんだ、そんなわけないだろう?元に俺たちは村を、人を食い荒らしてきたんだぜ?》
(あれは俺じゃない、それにあんなの言い伝えだ)
《んなわけないだろ?首筋に彫られた呪印と、あの狐の象が物語っているのだから》
そっと首筋を押さえる。
あぁ、分かっているさ・・・
アイツは今も外へ出ようと暴れているのだから。
言い伝えなんかじゃない。
羽衣狐が村を襲い、村人たちを喰い荒らしたのは事実だ。
俺はその妖狐が封印をぶち破り、二度と村を襲うことがないよう押さえつけ、封印の呪印「鍵」を受け継ぐ者だということも また事実。
だが化物でも妖狐でも、ましてや羽衣狐なんかじゃない。
俺は、人間だ。
《認めちまえよ、お前は人間じゃない》
(黙れ!!!!)
ドンッと力一杯壁を叩きつけると、声は何処かへ消えていった。

