少女は逃げた。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げてニゲテ・・・
もう人を殺したくない。
あんな真っ暗で陽の光も差さない牢屋にいたくない。
逃げなきゃ。
大人たちが追いかけてくる前に逃げなきゃ。
逃げて逃げて逃げて・・・
気づいた時には日本という国に来ていた。
「・・・beautiful・・・・・・(綺麗・・・・・・)」
綺麗・・・?
何故そう思うのか少女には分からない。
彼女が今居るのは竹林のなかにぽつりと立った鳥居の前だった。
真っ赤な塗装は所々剥がれ落ち、草花に被われ寉が巻き付いた鳥居には御札のようなものがあちこちに貼ってある。
竹の葉から溢れる春の日差しに照らされるそれは何とも幻想的に見えた。
「・・・Fox・・・・・・?(狐・・・・・・?)」
良く見れば鳥居の奥に狐の象が立っているではないか。
スラリとくびれた腰から伸びる9本の尾には鳥居と同じような札がびっしりと貼られている。
少女は鳥居をくぐるとそれに近づいた。
「・・・Beautiful blue・・・・・・(綺麗な青・・・・・・)」
まただ。
何故綺麗だと思うのか少女は自分の言葉に首を傾げた。
つつ・・・と狐の目に埋め込まれた海のように輝く青い石を指先でなぞる。
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・
「・・・・・・・・Is this throbbing?(脈打ってる?)」
指先で感じるほど、その石は一定のリズムで脈打っている。
心無しか暖かい・・・・・・
まるで生きているかのようにも思えた。
「そこで何してんだ!!」
不意に背後から男の声がした。
振り向けばおそらく少女よりは3つか4つ
(自分の年でさえ正確には知らないが)は年上であろう少年が驚いたように目を見開いていた。
「お前・・・誰だ?何で此処にいるんだ・・・」
少年の声は震えていたが瞳は驚きと警戒心に満ちていた。
面倒なことになった・・・と少女は心の中で悪態をつく。
「I'm not a doubtful person.(あやしい者じゃない)」
そう言うと少年は怪訝そうに首を傾げた。
(そうか、ここは日本だった・・・)
つい英語で話してしまったが、日本人には通じない者がいると誰かが言っていたような気がする。
彼をチラリと凝視すれば首は傾げてはいないが警戒心が強まったのは明らかだった。
本当に面倒くさいものだ。
「ご、めんなさい・・・にほんご、すこししか、わからない・・・ここ、あなたのばしょ?」
齧った程度の日本語で話す(いつもは他の者が代わりに話してくれるから必要ないと思っていたため)少女に少し面食らった少年は短く溜息を吐く。
「アンタ観光客?ここは俺の家の敷地内なんだ・・・悪いけど出てってもらえるかな
・・・?」
素っ気なくそう言った少年に少女は生まれて初めて苛立ちを覚えた。
「それは、すみませんでした・・・けど、そこまで、おこりますか?ボク、にほんよくわからない・・・なぜ、ここ、きたかわからない・・・それだけです。なぜおこる?」
むっとしたように言う少女に少年は少しばかり気押された。
小さな体からは肌で感じるほど殺気立っていたからだ。
(なんだ・・・こいつ・・・)
「・・・道に迷ったんだったら、あそこの道を真っ直ぐ下って行けば民家に出る・・・後は交番なりなんなり行ってくれ・・・」
少年の指差した方へ向くと段差は低いが緩やかな階段があった。
もう一度少年の方へと向くと未だに・・・いや、先程よりさらに警戒をしている。
だがもう会うことはないだろうと礼を言うと教わった道へと足を伸ばした。
少女の背中が見えなくなった頃、やっと警戒を解いた少年は
「はぁぁぁ・・・っ」
と長い溜息と共に脱力する。
まったく、学校帰りに急いでこっちに来てみれば見知らぬ少女がいるとは思いもしなかった。
それにしても、と少年は少女に教えた緩やかな階段をちらりと見た。
「・・・なんなんだ、アイツ・・・人形みたいに無表情だし・・・髪も肌も真っ白・・・ほんとに人間かよ・・・・・・」
あぁ・・・でも、
「・・・あのビー玉みてぇな翡翠色の眼は綺麗だったな・・・・・・なんて、な・・・」
少年は自分の言葉に自嘲めいたように笑うと狐の象の前に立った。
「暴れんなよ・・・鬱陶しい・・・そんなだから余計なもんが此処に立ち入るんだ・・・
」
少年の憎悪に満ちた声は木々のざわめきにかき消された。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げてニゲテ・・・
もう人を殺したくない。
あんな真っ暗で陽の光も差さない牢屋にいたくない。
逃げなきゃ。
大人たちが追いかけてくる前に逃げなきゃ。
逃げて逃げて逃げて・・・
気づいた時には日本という国に来ていた。
「・・・beautiful・・・・・・(綺麗・・・・・・)」
綺麗・・・?
何故そう思うのか少女には分からない。
彼女が今居るのは竹林のなかにぽつりと立った鳥居の前だった。
真っ赤な塗装は所々剥がれ落ち、草花に被われ寉が巻き付いた鳥居には御札のようなものがあちこちに貼ってある。
竹の葉から溢れる春の日差しに照らされるそれは何とも幻想的に見えた。
「・・・Fox・・・・・・?(狐・・・・・・?)」
良く見れば鳥居の奥に狐の象が立っているではないか。
スラリとくびれた腰から伸びる9本の尾には鳥居と同じような札がびっしりと貼られている。
少女は鳥居をくぐるとそれに近づいた。
「・・・Beautiful blue・・・・・・(綺麗な青・・・・・・)」
まただ。
何故綺麗だと思うのか少女は自分の言葉に首を傾げた。
つつ・・・と狐の目に埋め込まれた海のように輝く青い石を指先でなぞる。
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・
「・・・・・・・・Is this throbbing?(脈打ってる?)」
指先で感じるほど、その石は一定のリズムで脈打っている。
心無しか暖かい・・・・・・
まるで生きているかのようにも思えた。
「そこで何してんだ!!」
不意に背後から男の声がした。
振り向けばおそらく少女よりは3つか4つ
(自分の年でさえ正確には知らないが)は年上であろう少年が驚いたように目を見開いていた。
「お前・・・誰だ?何で此処にいるんだ・・・」
少年の声は震えていたが瞳は驚きと警戒心に満ちていた。
面倒なことになった・・・と少女は心の中で悪態をつく。
「I'm not a doubtful person.(あやしい者じゃない)」
そう言うと少年は怪訝そうに首を傾げた。
(そうか、ここは日本だった・・・)
つい英語で話してしまったが、日本人には通じない者がいると誰かが言っていたような気がする。
彼をチラリと凝視すれば首は傾げてはいないが警戒心が強まったのは明らかだった。
本当に面倒くさいものだ。
「ご、めんなさい・・・にほんご、すこししか、わからない・・・ここ、あなたのばしょ?」
齧った程度の日本語で話す(いつもは他の者が代わりに話してくれるから必要ないと思っていたため)少女に少し面食らった少年は短く溜息を吐く。
「アンタ観光客?ここは俺の家の敷地内なんだ・・・悪いけど出てってもらえるかな
・・・?」
素っ気なくそう言った少年に少女は生まれて初めて苛立ちを覚えた。
「それは、すみませんでした・・・けど、そこまで、おこりますか?ボク、にほんよくわからない・・・なぜ、ここ、きたかわからない・・・それだけです。なぜおこる?」
むっとしたように言う少女に少年は少しばかり気押された。
小さな体からは肌で感じるほど殺気立っていたからだ。
(なんだ・・・こいつ・・・)
「・・・道に迷ったんだったら、あそこの道を真っ直ぐ下って行けば民家に出る・・・後は交番なりなんなり行ってくれ・・・」
少年の指差した方へ向くと段差は低いが緩やかな階段があった。
もう一度少年の方へと向くと未だに・・・いや、先程よりさらに警戒をしている。
だがもう会うことはないだろうと礼を言うと教わった道へと足を伸ばした。
少女の背中が見えなくなった頃、やっと警戒を解いた少年は
「はぁぁぁ・・・っ」
と長い溜息と共に脱力する。
まったく、学校帰りに急いでこっちに来てみれば見知らぬ少女がいるとは思いもしなかった。
それにしても、と少年は少女に教えた緩やかな階段をちらりと見た。
「・・・なんなんだ、アイツ・・・人形みたいに無表情だし・・・髪も肌も真っ白・・・ほんとに人間かよ・・・・・・」
あぁ・・・でも、
「・・・あのビー玉みてぇな翡翠色の眼は綺麗だったな・・・・・・なんて、な・・・」
少年は自分の言葉に自嘲めいたように笑うと狐の象の前に立った。
「暴れんなよ・・・鬱陶しい・・・そんなだから余計なもんが此処に立ち入るんだ・・・
」
少年の憎悪に満ちた声は木々のざわめきにかき消された。