『ビール、おかわり!』
薫の注文に、あいよー!という店員さんの気合の入った返事を遠くに聞きつつ、私は未だに半分は入ったビールジョッキを片手に持つだけで、口に運ぶ気力がわかない。
『だいたい、御曹司が庶民と結婚しちゃいけないっていう法律はないのよ?』
「そりゃそうだけど…。これは、モラルの問題よ。」
『でも、私と翔だって、茉央たちと変わらないのよ?グループの御令嬢と、サラリーマンの恋だし。』
「何言ってるの。翔くんは、薫の会社の営業部長でしょ?将来有望な人で、立派なエリートじゃない。私とは違う。」
そう。
翔くんと私を比べるなんて、恐れ多いことだ。
私は何の取柄もない一般庶民。
翔くんみたいな高学歴のエリートコースを歩んでるわけでもない。
下町の、こじんまりとした、知る人ぞ知るみたいなカフェの一店員だし、学歴だって誇れるようなものじゃない。
『んもう、何言っても聞かないんだから。』
「縁がないのよ。それに…彼もきっと、一時の気の迷いだったのよ。」
『プロポーズまでしたのに?』
「それも本人同士だけでのことで、彼の家族は納得しないはず。元々、本気にしてなかったしね。」
私の言葉に、薫は納得していない様子。
薫の言いたいことはわかってる。
私は周りのことしか考えてないって言いたいんでしょう。
恋はそんなもので左右されるものじゃないと言いたいんでしょう。
でも、だって――…
理由がはっきりとしたモヤモヤを感じたくなくて、残りのビールを煽った。
「生おかわり!」
薫の新しいビールが到着したと同時に、私もビールのおかわりを頼み、さらに酒を煽るのだった。

