――「…ありがとうございます。」
目の前に出された、紅茶が入れられた品の良いティーカップ。
彼の住む高級タワーマンションの最上階のリビングで、高級なソファに腰掛ける私は、出された紅茶に手を伸ばす。
『――で、もういいだろ。』
「え…?」
悠然と私の隣に腰掛けた彼は、鋭い目つきで私を見つめてきた。
なんだか嫌な予感がするのは、私だけでしょうか?
『お前、秋元 薫じゃないだろ。』
「っ!?」
自然と引き攣っていた私の顔は、驚きのものへと瞬時に変化していくのが、鏡を見なくてもわかった。
最悪だ。
だから私じゃダメだといったのに――薫のバカ。
『秋元グループのご令嬢くらい、顔は知ってる。』
「……っ」
『特に今回のパーティーでは、秋元グループの会長から直々に娘を挨拶に行かせると連絡があったから、猶更な。』
きっと、あの受付の時から私が薫じゃないってこと、分かってたんだろう。
分かってたのに、あそこで言わなかったなんて――むかつく。
最初から言ってくれてれば、あんな無駄な時間、過ごさなくたってよかったのに。

