『行くぞ。』
「えっ」
何も言わないと思ったら、いきなり彼に手を引かれ、いつから目の前に停まっていたのかもわからない黒塗りのリムジンに乗せられた私。
目の前で起こっている状況についていけていない私の横に彼が座ると、タイミングよく閉ざされたリムジンのドア。
ちょっと待って、なんて言葉も出ないまま、発車したリムジン。
「あの、いまからどこに…?」
『俺ん家。』
ちょっと、ちょっと!
本格的にヤバいことになってきたよ、これは!
「できれば、このまま私の家に送っていただけると幸いなんですけど。」
『あ?』
「っっ」
超絶イケメンに睨まれると、こんなにも生きた心地がしないということを、この時初めて身をもって理解した私。
怖い、怖すぎるよ、この人。
あのスピーチの時の王子様スマイルはどうしたの?
『お前ん家でお茶の一杯くらい出してくれんならいいけど?』
「え、遠慮しますっ!」
『だったら、俺ん家決定。』
ぅうーっ!そりゃないよー…。
私の家になんて行ってしまったら、ココまでの努力がすべて水の泡となって消える。
薫の家になんていけないし。
見たこともない外の景色を目の当たりにしながら、私はこれからのことを考えて泣きそうになった。

