「そんなことも言えないようでしたら、この話はナシということで。」
有り得ないと思った。
大事なことも分からないなんて、どれだけ外身がよくたって、結婚なんてしたくない。
『おい、』
彼の前から立ち去ろうとする私の腕を、今までと比にならないくらい強い力でつかむ、彼の手。
「離して!」
『離したら帰るだろ?そうはさせないよ、絶対に。』
「……っ」
確かにそうだけど。
ってか、頬の筋肉は上がってるのに、目が全然笑ってない。
ヤバい、怒らせたカモ…!
「か、帰りませんから。」
小さな声でそう言うと、意外にも呆気なく解放された私の腕。
彼を怒らせるのは、さすがにマズいだろう。
ちょくちょく忘れかけているけれど、薫の会社の社運が懸かっているといっても過言ではないのだから。
でも、本音を言うと――やっぱり、直帰したいと思ってしまう。

