「ちょっ…と、」
『この話は、君の会社にも朗報なはずだけど?』
「っ、」
彼の強いギラギラとした眼差しに、私は顔を伏せる。
そうだった。
今の私…薫なんだ。
薫の会社の未来が今、天秤に賭けられてるってことで――
でも、そんな大事な選択、私にはする権利もない。
「あの、」
『ん?』
「この話――、」
『小鳥遊様!こちらにいらっしゃいましたか!』
返事をしようと口を開いたのと同時に、この場にやってきたのはタキシード姿の男性。
多分、パーティーのスタッフさんだろう。
『どうした?』
『そろそろお時間です。皆様、お待ちしております。』
『ぁあ、もうそんな時間か。』
男性の言葉に、高そうな金時計で時間を見た彼は、突如私の手から皿を取り上げた。
「ちょっと!」
『一旦、お預けだ。とりあえず、これ食っとけ。』
「なっ――ん!?」
抵抗もむなしく、強引に口に入れられたのは、ローストビーフ。
数回咀嚼してみる。
「あ、美味い。」
さすが、薫が認めただけある。
ローストビーフの味に感動していると、私のお皿をスタッフさんに預けた彼から、手を握られた。
『行くぞ。』
「え?」
訳もわからず、私は彼に引きずられるように、元いたフロアに引き返された。

