「どうしたのこれ。誰かにやられた?」

「何でもないよっ。それにこんなのいらないっ!」





頬に触れた手を振り払い、肩にかけられたジャケットを突き返す。この寒空に薄い長T一枚。きっと着てたジャケットを掛けてよこしたから。


そのままその場を去ろうとした。
彼の横をすり抜ける。行くアテなんかない。きっと自宅前も舎弟が張ってる。捕まればもう……






-ギュッ-





「えっ…」






今度は軽い布の感覚だけじゃない。腕と身体にかかる軽い圧迫感。
抱き締められてる!?

ジャケット越しに感じる筋肉質な腕、彼とは違うタイプの香水の香り。




「ちょっ……なにすんのよ。放して!」





振りほどこうとしても逃れられない。
もがく程身体の傷に障る。





「痛………」

「お前、美潮だろ?」

「え?」






見た事もない相手に自分の名前を口にされて動きを止める。
なんでこいつ私の名前知ってるの?






「あんた………誰?」

「ひでぇ。中1まで同じクラスいた奴に言う言葉?」

「中……1?」






そんな五年も前の話思い出せる訳……あ!






「徹?前山徹じゃない?」

「そうだよ」






思い出した。クラスいちお調子者で、目立ちたがりでそれでいて男子にも女子にもモテる奴。昔はこんな感じじゃなかった。スポーツ刈りで色黒で小柄で……確かお父さんの転勤で県外に越した筈。




「なんでこんなとこにいるの?」





抱き締められたままで身動き取れなくて首だけ上を向く。





「去年戻ってきた。この近くに住んでる」

「そう……」

「ずっと美潮に会いたかった。五年前やり残した事あったから。そしたら今日偶然会えた」

「私は何もないわ」





こんな汚い薄汚れた私を見られるのが堪らなくて早くこの場を立ち去りたい。