私は空っぽだ。
誰がなんと言おうと、今の私は空っぽだ。
夢宮彼方。
16歳。
5月28日生まれ。
赤茶の長髪。
黄色の右目。
緑色の左目。
性別は女。
そして、今はよくわからない場所にいる。どこにでもあるような、アパートの一室のような。でもそう呼ぶには広いような。
マンションの一室、と言った方がなかなか分かりやすいような気もするが、とにかく私はそんな部屋のリビングと呼ばれる場所にいる。
その上、着ているものも、よく分からないがどこかの学校の制服なのだ。なんとも言えない気分になる。
この部屋の中には誰もいないようだが、なんと家具が大体揃っている。便利なことで。

だけど。

ここに来る経緯も何もかも覚えていない。

今、誰かが私の目の前に現れて
「お前は何者だ!」
と問われたとしても、
「えっ…えっと、夢宮彼方、16歳です☆」
みたいな売れないアイドルのような反応しかできないのだ。
自分の性格について。
自分の人格について。
知らない。
わからない。
今私は思い出せないのだ。
私という存在がどんなものか。
夢宮彼方としての情報はあるのに、何故か思い出と呼ばれるものだけが欠如している。
欠けている。消えている。抹消されている。
名前が付いた、ただの器。
これじゃあまるでロボットじゃないか。
人形じゃあないのか。
なんてそんな言葉が思い浮かぶ。

そんな私の暗い考えを吹き飛ばすような、間抜けな声で、そいつは突然現れた。

「ぽんぽぽぽーん!!!皆のアイドルこと、寮母ホープだよー!!!」