「どうして。私のこと、知っているんですか?」


「別に、知らねぇけどさ。けど、あんたが、つらい思いしてるってのは、わかる。この子が、泣いてるからな、ここで」


「この子、が?」


純が指さした場所を、女性は見つめている。
少女は、じっと、女性を見上げている。

その姿が、女性に見えているはずがない。

それでも。


「そんなこと、あるはずないのに。不思議。なんだかほんとに、ここに、いるみたい」


ほんとにいるんだよ。

心の中だけで、純は、言い返す。

見えないものを信じられない人間は、多い。

むしろ、見えないものを信じる人間が、ほとんどいない、と言っていい。