「まずここはヘカシュタってェ国の領内でして」

「ヘカ…シュタ…?椿、知ってるか?」


ギークの口から飛び出した聞きなれない国の
名前に戸惑い、意外に博識な椿を見た。

しかし彼は私と同じように怪訝そうな顔をして
顔を横に降るだけだった。


「そういえば、さっき俺達を売るつもりって
聞いたけど…どういう意味?
この国ではそう言うのが当たり前なわけ?」

「いえ!ここは平和な国でして…」

「北のガレジルっつー万年冬の国で奴隷が
多く使われているんでそこに…」

「もうそんな気はないっす!許してください!」


口々に言う山賊たちをなだめて、椿と私は
それぞれ意見交換をした。


「ガレジル…も、聞いたことないな。」

「そもそもここが俺達のいた世界かどうか
も怪しいね」

「流石にそれはフィクションの見すぎじゃ…」

「そうとも言えないぜ。あの服装、道具、髪色
それに気づいたか?黒髪が一人もいないんだ」


そういえばそうだ。

すると話をを聞いていた一人がおずおずと
右手をあげた。


「あの…シオンさん」

「なんだ」

「この国…いや、この世界じゃあ黒髪は
かなり珍しい。エルフや天使にもそうそう
いないんだ。だからもし町におりるつもり
なら気を付けた方がいい。
変な輩に目をつけられると何をされるか
分からねぇ。」

「待て、どこから突っ込めばいいのか分からん」


野蛮な男の口からは想像もつかなかった
言葉が飛び出して驚く。

エルフ?天使?

アイスランドでは国民の60%が妖精の
存在を信じていてエルフについて学ぶ
スクールまであると聞く。

まさかここはアイスランドでこいつらは
たまたま残念な頭の持ち主だったと言う線が
私のなかで濃厚になった。


「でも紫音、ここが仮にアイスランドだったとして
どうして言葉が通じてるのさ」


心を見透かしたように椿の指摘が入り
私の短い現実逃避は終わった。


「取り合えずここは、俺達は全く別の世界に
来てしまったと考えるのが一番楽じゃない?」

「……そうだな。」

「あの……お二人さん?
あんたらは一体どこから来たんで?」

「あー…日本ってとこだよ。」


椿がそう答えると、山賊たちは怪訝そうな
顔を互いに見合わせた。

どうやら本当にしらないらしい。


「とにかくここに居ても仕方ないし…
近くに町があるんだっけ?」

「へぇ!!南へ抜ければ城下町でさァ!」

「行くんですか!お供します!」


凶悪な人相の男達が一斉に立ち上がるが
その前に1つ。と私は人差し指を立てた。


「私と椿の他に男がいなかったか。
最大で四人いたはずだ」

「いや…俺達が見たのはあんたらだけでしたぜ」

「そうか…椿行くぞ。お前たち、世話になったな
世話ついでに町の手前まで案内を頼む」


すっかり私の子分となってしまったらしい
山賊たちは元気な返事をして頷いた。