シンヤが呼んでくれたタクシーでヒサギをマンションまで送った。
久し振りに入ったヒサギの部屋は、相変わらず殺風景で余り生活感が感じられない。
インテリアにもさほど興味がないようで、必要最低限の物しか置かれていない。
ベッドにヒサギを横たわらせ、テーブルの上に壊れた携帯と、『明日の朝、迎えに来るね』と書き置きを残した。
酒に弱いヒサギのことだ。
きっと明日の朝は二日酔いに苛まれるか、起きられないかのどちらかだろうから。
ハルキはベッドの脇に腰を下ろして再びその寝顔を覗くと、変な夢でも見ているのか、眉間にシワが寄っている。
なんとなく。殆ど無意識にハルキは手を伸ばして、そのシワをなぞる。
シワを伸ばすように指を動かすと、くすぐったいのかヒサギの睫毛が揺れ、不意に動いた手で払われてしまった。
起きてしまったかと思ったが、直ぐにまた規則的な息遣いが聞こえてハルキは安堵の息を吐く。
ヒサギの事が好きだと気付いてからの8年。
その間にハルキは何度となく異性と付き合っては別れてを繰り返してきた。
別れの原因はいつも同じ。
彼女を1番に思えない辛さからギクシャクし出して、大抵振られる。
最低な別れ方だ。
自分から別れを告げなければならないのに。
いつだって、彼女の方が異変に気付いて打ち明けてくる。
そんな事を繰り返す位ならいっそ誰とも付き合わなければいい。
だが、ハルキは真性のゲイではない。
普通に女の子が可愛いと思うし、ヒサギ以外の男なんて真っ平御免だ。
告白されれば嬉しいし、今度こそ、という気持ちが芽生えてしまう。
それでも……。
「……ヒサギちゃん、また明日ね」
顔を隠す髪をそっと退かして、その頰に掌を添えた。
なけなしの理性をフル稼働させて、キスしてしまいたい衝動をどうにか抑える。
離れ難い気持ちを制して、ヒサギの部屋を後にするのだった。
fin


