「気になるよなァ、なぁ、ハル?」
アルゼフが面白がってるのは誰の目からも明らかだ。
ハルキはヒサギを擁護したいところではあるが、口元の傷と関係している所為で「ちゃんと教えて」と真面目な顔付きでヒサギを見遣る。
「……はぁ。街で偶然、アイツの彼氏ってヤツに会ったんだよ」
「彼女の彼氏? うわ何ソレ。二股掛けられてたってコト!?」
ハルキの隣の椅子を引き寄せて、アルゼフはハルキとヒサギと三角形になるようにして腰を落ち着けた。
「そーゆー事になる。そんで、その彼氏ってヤツが突然殴り掛かって来たんだよ」
アイツの所為でとんだ迷惑だ。
そう呟きながら、ヒサギはテーブルに置かれた携帯に視線を送る。
何と無くボタンを押してみるが、反応する筈もなく、ブラックアウトしたままだ。
「もしかしてやり返しちゃった?」
恐る恐るハルキが聞くと、ヒサギは「してない」と小さく答えた。
「なんか、馬鹿馬鹿しくなって来たんだ。仕方なく付き合った女の為に何で俺が我慢しなきゃなんねぇんだとか思ったけど、そこでモメても面倒なだけだし……」
空になったグラスを悪戯に回すと、カラカラと氷の音がする。
「そういや、お前彼女居たよな」
「えっ? あ、うん。彼女? 今? 居る、よ?」
ヒサギにそんな事を言われるなんて微塵も思っていなかったせいで、ハルキはしどろもどろになりながらの返事になってしまった。
「お前は、上手くやってそうだよな……。なんか、他人に合わせんの、疲れた……。ハルキ、間違っても俺に女を紹介すんなよ。サユコ、から連絡来ても、アイツには連絡すんな。合コンも……付き合うのも……疲れた。ひとり、で……居た……ぃ……」
語尾は寝息混じりで、ハルキとアルゼフにしか聞こえなかっただろう。
グラスを持ったまま、ヒサギはテーブルに突っ伏してしまった。
後に続く規則的な息遣いで、ヒサギが完璧に寝落ちてしまったのが分かる。


