「あの、えっと、何の話をしていたんですか?」
恐る恐る訪ねてみる。

…すると、悠斗さんは困ったような笑みを浮かべた。

「…全く完敗だよ。さっき、金崎さんが何を言ったのか、全然聞こえなかった?」
悠斗さんの言葉に、何度も頷いて見せた。

「…一体、あの人は何を考えてるんだろうな」
「…私の方が知りたいです」

私が困った顔をすれば、悠斗さんは可笑しそうに笑った。

「知りたければ、本人に聞くべきだな」
「…あの人は、必要な事は何も話してくれません」

「そう?…オレには、必要以上に話してくれたけどね」
「・・・」

その言葉に、嫉妬すら浮かぶ。…悠斗さんには話せるのに、私には話せない?!

思わず私は立ち上がった。

「…ほら、あの人、追いかけた方がいいんじゃない?」
「・・え?・・・あ!あの、すみません」
…かろうじて、金崎部長の後ろ姿が見え、私はそれを追いかけた。

・・・腹が立って悔しくて、無我夢中で走った。
…いつの間にか、金崎部長を追い越して、振り返った私は、ズカズカと金崎部長の所に歩み寄る。

金崎部長は何を言うでもなく、私を黙って見つめた。

グッと金崎部長の手を握りる。
流石の金崎部長は目を見開く。

私は黙ったまま金崎部長に手を引き、駅に向かう。
電車に乗り、私の家の最寄駅で下車した。

「…おい、何時になったら、手を離す・・・?!」
振り返った私を見て、金崎部長は無意識に、私の手を握りしめた。

…私が涙目で睨んでいる。一回でも瞬きをすれば、その涙は流れだすだろう。


「…どうして?…どうして、私には何も??」
そこまで言いかけて、またしても耳を塞がれた。
・・・金崎部長の意味不明な行動に、ただただ困惑するばかりで。