俺は愛用しているポケットナイフを、ズボンから出すと刃を出した。
無抵抗なホームレスを自分のコートと共に、切り裂いた。ホームレスは突然の痛みに悶え、叫びをあげる。

俺はそんな事など気にもせず、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も...
切り裂き、刺した。

暗くて見えないが、血の飛び散る音は解った。
叫び声すらも、もう聞こえない。
それでも俺は切り付けた。制御機能が無くなった機械のように...。
何の意味もないその行為が、堪らない。
血でねまりけのある〝それ〟に俺は身をうずめた。
中は生温かく、生臭い。血の独特な鉄の臭いが鼻に付く。


「ハァ...ハァ...堪んないなぁ。ゾクゾクして、体が震えるよ。なぁ、どんな気持ちなんだ?俺に殺された感想は?自分の人生振り返ってどうだった?後悔は無いか?まだ生きたかった?ゴミ溜めでの生活はどうだ?ナイフが体に入った感想は?何回目で意識がなくなった?痛い?痛い?痛い?痛い?痛い?痛い?痛い?痛い?痛い?...答えろよッ!!!!!!」


叫んだ所為なのか、頭の中が急速に冴え渡った。荒かった息も正常なものになっていくのが、自分でも解った。
原型の無い死体から身を起こす。
冷静になった頭で自身の行動を振り返った。


「...何やってんだ...俺。」


馬鹿みたいに死体に問い掛けても、何も返ってこない。それ位は子供でも解る事だ。
10年前の悪癖がまだ褪せる事なく、この魂に刻まれているのだなと、再認識させられる。
かと言って、俺はこれを治すつもりなどさらさら無い。これが俺だ。誰がどう言おうと...。


「帰るか...。」


コートは俺が切り裂いてしまった為もう使い物にはならない。その場に置いていくことにした。
体中が血塗れなので、この寒い気温の中では耐え難い。
俺は足早に家へ戻った。