意識が戻り、俺は目を覚ました。
手足を拘束されたまま、俺はドラム缶の中に詰められていた。

ちょっと待て、此処は一体何処なんだ。
俺はあの変な軍服野郎から薬嗅がされて、意識失ったところから全く記憶がない。
其のまま眠っていたのか。
だが、其れにしては余りに厳重に拘束されている。
如何言う事だ。


「取り敢えず...脱出だな。」


手と足にロープがきつく結ばれている。ロープが擦れて手首が緋く滲んでいる。
俺は窮屈なドラム缶の中で、何とか身を捩らせてポケットに手を伸ばしたが、ナイフが無い。
奪われたのか...。
クソがッ...。


「素手で、如何にかしろって言うのか。
クソ野郎がッ!!」


今は怒鳴っている暇はない。
何とか足だけでも自由にしなければ...。
俺はドラム缶の中で足元に手を伸ばす。拘束されているのは仮でも手首だけだ。
手は自由に動かせる。

足元のロープは見えないが、指先の感覚だけでロープを解いていく。
マジできつく結んである。指先が痛くて堪らない。
暫くロープと格闘していたが、漸く解く事が出来た。
指までもが血で滲んでいる。

ドラム缶の端に手を掛けると、俺は立ち上がった。幸運にも蓋(ふた)まではされていなかった。
やっとの思いでドラム缶から脱出する事が出来た。
見回すと独房の様な部屋だと言う事が、明らかだった。

両手が塞がったままだが、俺は構わず独房から出た。
素手と言う事が心もとないが、ぐだぐだ言っている暇はない。
早く戻らなければ...。
もしケビンと『不思議の国』が関わっていたら、あいつは優しいからきっと変に受け入れてしまう。
そんな事、させる訳にはいかない。

ケビンを『不思議の国』(こんな奴等)に、汚されてたまるか。

“あいつ”をもう、誰にも傷付けさせない...。
決して...させる訳にはいかねぇー。


「今度こそ、幸せにしてやるからな。」


ヤベエ、口に出しちまった。
恥ずかしい...誰かに聞かれたら絶対変な目で見られる。
ギフトだったら絶対馬鹿にしてくるし、俺の過去を調べ上げてネタにしてくるに違いない。
誰も聞いていねぇーよな!?
にしても最近になって、よく思い出す様になったな。“あいつ”の事。
“あいつ”が死んでからもう10年になるって言うのに...。引き摺ってると、“あいつ”に「似合わないよ」って笑われそうだ。

今はそんな事より、一刻も早く『不思議の国』を見つけ出して、殺してやる。
俺にこんな事したんだ。それなりの覚悟があったんだろうよ。
首と四肢を切り落として、全員付け替えてやる。
首は1つずつ杭に突き刺して、四肢を落とした胴体からは、内蔵を引き摺り出して、他の奴の内臓と縫い付けてやる。
杭に突き刺した首からは、目玉をくり抜いて血の涙を流させて、其れを見て俺が大きな声で高笑いするんだ。

俺は取り敢えず勘で手当たり次第に走り回った。
だが、人の気配すら感じる事は無かった。一体如何言う事だ。
全く覚えてないが俺をドラム缶に詰め込んだ後、奴等は拠点へ戻ったのか。
と、考えると此処は唯の廃墟って事か。

だったら此処で走り回っている意味が無いじゃないか。
まぁ、普通に考えて人気が無いのに、走り回っている事が既に無意味か...。
俺は走りを止めると、深い溜息をついた。