side:セルリア
今が朝なのか昼なのか、其れ共夜なのか...其れすら解らない。
3体の化け物は暫くは大人しくしていたが、暇だと言い出して俺を更にロープで固定すると、錆臭いドラム缶の中に押し込んで何処かへ行ってしまった。

ずっと暗闇が視界を染め、鼻には錆の臭いが染み込んでいった。
あれから足音は聞こえない。つまりは誰も此処には来ていないという事。
意識は朦朧とするし、腹は減るし、周りは化け物で溢れている。
俺は此れから如何なるのだろうか。

ふわふわと漂う意識をなんとか繋ぎ止めながら、俺はそんな事を思った。
眠い...今まで眠っていた気がするが、俺は眠くて仕方が無かった。
だが捕えられているにも関わらず、呑気に眠ってなどいられない。
頭(こうべ)を垂れながら、俺は必死になって瞼を上げている。


“ちょ、こっぢ来ね゙ぇーか。”


声と共に俺は本当の暗闇に引き摺り込まれた。
目の前にはムッシュが立っている。


“何のつもりだ?”

“其れ゙はこっぢの台詞だぁ。”

“あ゙?”

“おめぇさ、「真(まこと)」が見えどら゙んどぉ。”


真?何だ、其れは...。


“何言ってんだ...。”

“「人」が「人」に見え゙でねぇって話だぁ。”

“ッ...!?”


ムッシュは、ほれ見ろ、と言わんばかりに笑った。
当たっているから、ムカついても反論出来ない。


“だったら如何すんだよ。”

“決まっでんだぁ。おめぇさ正気に戻すだよ。”

“お前にんな事出来んのか?”

“年上の包容力なめ゙んな゙。”


そう言ってムッシュは俺を抱きしめた。
包容力って其のまんまの意味じゃねぇーか。
確かに俺を包容出来るけど、ニュアンス的に違ぇーだろ。


“「恐怖」はワタシが引ぎ受げるだ。だがら...おめぇさ何時も通り、何時も通りにな゙るだぁよ。”


俺の頭を撫でながら、ムッシュは赤子をあやす様に言った。
一応俺は19歳だぞ、恥ずかしいだろうが。


“んじゃ、いっでらだ。”


ムッシュが言うと、俺の意識は外へ戻って行った。
先程まで感じていた眠気も無い。むしろ体が軽くなって気分も良い。