side:キース
ベッドの上で目を覚ますと、朝日が窓から射し込んでいた。
寝起きで重い体を動かしながら、ベッドの隣にあるもう1つのベッドで眠っているマロンに目をやった。
まだ気持ち良さそうに眠っている。
マロンは朝に弱い。其れは最初に出会った時から変わらない。

俺は肩に付く髪を掻きながら、ベッドから出ると身支度を始めた。
顔を洗って、髪を結び、Yシャツに腕を通してキッチンへ向かう。

朝食を作り終えると、まだ眠っているマロンを起こし、洗面所まで引き摺って行く。
顔を洗わせると俺はスーツを着て、先に食事を摂る。

其の後漸く髪のセットが終わったマロンが、目を擦りながら朝食を摂る。
先に朝食を食べ終えた俺は、仕事に必要な物を再確認してマロンを待つ。

マロンも朝食を食べ終えると、スイッチが入り動きが素早くなる。
マロンの支度が終わると、俺達は揃って仕事場へ向かった。












仕事場(調整局)に着くと、自分のデスクに座った。
まだ朝からフェスターニャの姿を見ていない。フェスターニャだけでなく準局長の姿もだ。
『不思議の国』を捕えていないと言うのに、何故顔を出さない。

昨夜のフェスターニャは、一体誰と会う約束をしていたんだ。
準局長も姿を見せないだけでなく、指示も無い。こうしている間にも、犯罪者共は悪事を働いていると言うのに...。

怪しい...確証は無いが、勘でそう思った。
昨夜マロンに、フェスターニャに小型発信機を付けろと指示をしたものの、調整局を出て直ぐに感ずかれてしまい無駄足に終わった。

最初に俺が直接聞いてみたが、冷たくあしらわれて終わった。


「キース先パイ!如何したんっスか?難しい顔してるっスよ!」

「...何でもない。其れより『不思議の国』の拠点は?」


マロンは自信満々と言った感じで、書類を手に報告を始めた。


「バッチリっスよ!!奴等足跡くっきりだったんっスもん!」

「何処だ。」

「キース先パイ...声色が怖いっスよ。」

「良いから早く言え。」


目付きの悪さと鋭い口調の所為で、マロンが無駄に俺に怯える。
怒っていないだろうが...。


「あ~えっとっスね...。イルバー通りっス。」


イルバー通り...か。あそこは貧民街だったな。
だが、今は住人は少なく殆ど廃墟と言っても過言ではない。


「街の監視カメラに、バッチリ足取り残ってたっス!画質は最低っスけど...。」

「充分だ。」

「あっ!後っすね!!興味深い情報見つけたっスよ!
『不思議の国』は元はキャロル伯爵に仕えていた護衛だったみたいっス。」


キャロル伯爵。下級貴族で表では目立つ事の無い伯爵だ。
『不思議の国』を従えていたのか。
キャロル伯爵は気が弱いと言われていたのにか。


「“だった”とは如何言う意味だ。」

「逃げたみたいっスよ。」


『不思議の国』が逃げた...。気が弱い伯爵から。
如何言う事だ。『不思議の国』は殺し屋だぞ。


「逃げた...?」

「そうっス。噂なんスけど、キャロル伯爵はロリショタコンらしくって、其の性癖に耐えかねて逃走...的な感じっス。」


性癖に耐えられないのなら、殺して逃走が普通だろう。
何故、カルラに留まりキャロル伯爵を殺さないんだ。死なれては困る何かがあるのか...。


「逃走ならカルラに留まる必要は無いだろう。」

「お金でも集めてるんじゃないっスか。」

「奴等が殺ったと思われる死体からは、何も取られていなかっただろう。」


俺に論破されるとマロンは考える事を止めた。


「じゃー解んないっスよ!!」

「考えろ。」

「投げやりっスか!?」


少しは頭を使えと言う意味だ。