確かにマスターと真面目に話しをするなら、其れなりの労力を失う事になるけど。
ナタリアもきっとマスターに言いくるめられたのだろう。マスターは味方を多く持つ事が好きだから。


「もういいかな?ナタリア。」

「...もう、好きにしやがれ。」

「OK。じゃ、フェスターニャ、頼んだものを。」


マスターがテーブルの椅子に腰を降ろして、手を差し延べる。私はバッグの中からノートPCとUSBメモリを取り出して、マスターに渡した。
マスターはノートPCの電源を付けた。立ち上がるまで時間があるので、マスターは掌でUSBを遊ばせている。


「フェスターニャ、座りなよ。」

「あ、はい。」


私が椅子に座ろうとすると、突然椅子を引かれた。こんな事をする人間は1人しかいない。


「これ、ボクのだから。ファクトは消えて。」


マスターと同じ瞳のドールだ。マスターには及ばないが長身で、悔しい事に私より強い。
マスターも嫌いと仰っていたが、最も信頼できる駒と仰られていた。


「まるで幼児の様な嫌がらせですね。〝ラーベスト〟さん。」


ドールはファミリーネームで呼ばれる事を嫌っている。
理由は簡単、マスターが自身の親を嫌っていたから。だからマスターは両親を殺したと仰っていた。

ドールが眉間に皺を寄せて、私に唾でも吐きそうな顔をした。


「ムカつく〜、兄さんをやらしい目で見てる癖に...。」

「いやらしい目で見ておられるのは、ラーベストさんの方では?」


普段からベタベタとマスターに抱きついている癖に、私が悪いとばかり言い付けてくる。
だから嫌いなんだ。其れに女だからと文句も付けてくる。戦う事しか取り柄が無い無能が。


「いやらしくないし〜、ボクは純粋に愛してるんだよ。つか、早く消えてよ。」

「貴方が先に私の目の前に現れたんじゃないですか。貴方が消えて下さい。私の視界に入らないで下さい。」


先に私に突っかかって来たのはドールの方じゃないか。
自分の事は棚に上げて...マスターから嫌われている自覚も無い。勘の鈍い男だ。


「だったら兄さんから離れてよ。マジで殺すよ。」


ドールが握っている椅子が悲鳴を上げ、原型を失っていく。
家具1つさえまともに扱えないとは...。


「良いですよ。受けて立ちましょう。表へ出ますか?」

「2人共止めろ。」


私とドールの言い合いをマスターが止めた。
揃ってマスターの方へ顔を向けた。

マスターの顔が心無しか怒っているように見える。
其の顔を見て私は次第に冷静さを取り戻していった。


「喧嘩する為に此処に居るんじゃないだろ。
ドール、気に食わない事は知ってるけど、だからと言って一々突っかるな。
フェスターニャ、君も喧嘩を買うな。仮にも女の子なんだから。
其れにドール相手じゃいくら君が強がっても勝てないよ。」

「すいません...。」


私が先に謝るとドールも慌てて謝った。


「ごめんよ♥兄さん♥」


猫撫で声でマスターに言い寄る。マスターが腐れる、汚らわしい生き物め...。