「マスターはマスターですから。」

「其れは嬉しいけど、偶には名前で呼ばれたいものだね。まっ、無理強いはしないけど、フェスターニャが其れが良いって言うなら、僕は其れで構わないよ。」


マスターが微笑みながらそう言い、私はマスターの手に引かれて、リビングへやって来た。
リビングにはマスターの弟(私は此奴の事も嫌いだ。私を除け者にするからだ。)、話だけ聞いていたディーブと言う少年。
後の2人は知らない顔だ。


「ところでフェスターニャ。此処に来る途中で、何か合ったのかい?」


マスターがにやりと興味津々な顔を私に向ける。やはりマスターは何でも御見通せるようだ。


「『不思議の国』の者に会いました。銃を発砲してきたので、利き腕を頂いて来ました。」

「じゃ、相手の戦力は落ちたって事か。流石フェスターニャ、腕が鈍ってなくて嬉しいよ。」


マスターに褒められた。凄く嬉しい...。
奥のソファーに座っている白衣を着た男が、マスターと私を不思議そうに見つめてくる。


「おい、ギフト...。1つ聞きたいんだが。」

「如何したの?ナタリア。」

「お前なんで準局長の秘書と、そんなに仲が良いんだよ。」

「其れは黙秘させてもらうよ。余り人に知られたく無いからね。」


ナタリアと呼ばれた男は、マスターの答えが納得いかなかったのか不服そうな顔をした。


「...教えてくれたら次の医療費は無料(ただ)にしてやる。」

「本当かいッ!?じゃ〜教えるよ!!!」


マスターは金に釣られる御人と言う事を忘れていました。
出会った当初から金の事になるとマスターは、如何やって値切ろうか、と其れだけを考える人間でした。
レジより先に合計金額を出した時は、流石に私も引かざる終えませんでした。


「僕が準局長だから。」

「は...?」

「“は...?”じゃなくて、僕が準局長。」

「はあぁあぁあぁぁぁぁッ!!!!!!!!!???」


ソファーから落ちかけながら、ナタリアは驚きの声をあげた。
ナタリアの近くにいるディーブともう1人の青年は、耳を塞いでナタリアに迷惑の目を向けている。
ドールはさほど気にしておらず、唯マスターを見つめていた。そんな汚らわしい目でマスターを見るな。


「ナタリア、五月蝿いよ。夜中なんだから静かにしなきゃ。」


ナタリアはソファーから立ち上がると、驚きが抑えられない様で、言葉が溢れては消え去っていった。
何とか頭の整理が出来たのか、漸くまともな言葉を紡ぎ始めた。


「此れが静かに出来るか!!準局長だぞ!準局長!!」

「たかが準局長だよ。大袈裟だな。」

「“たかが”じゃねぇーだろッ!!!実質この国の情報を操れるんだぞ!!!」

「あぁ、その事。公にする情報は、大方僕が操作出来るようになってるけど...。其れが?」


マスターの陽気な態度に、ナタリアは言い返す事を止めた。